「なぜ中学生男子は直前まで勉強しないのか」を科学する
- Avalon
- 5月6日
- 読了時間: 5分
1.気づけばいつもギリギリ!?
「明日からやる」「まだ時間あるし」……。そんなつもりはなくても、気がつけば試験直前。
なぜ彼らは、目の前の快楽(スマホ・ゲーム・カープなど)を優先して、大事なはずの勉強をついつい後回しにしてしまうのでしょうか?

世の多くのお母さん達は
「そんなのうちの息子(娘)がどうしようもなく怠け者だからに決まってるでしょ!他にどんな理由があるって言うんですか!?ハァ・・・」
などと海よりも深いため息をつくに違いありませんが、ちょっと待ってください。
事はそんなに単純ではありません。
中高生と言えど、彼らとて人格と知能を兼ね備えたホモ・サピエンス。彼らは彼らなりに「合理的な」判断基準のもとに行動している筈です。
ただ時として彼らにとっての「合理的」判断が、彼らよりも少しだけ長く生きている大人にとっては極めて「非合理的」に見えるが故に、つい我々はイライラし、時には声を荒げてしまうわけです。
では彼らは、一体どのような「合理性」に基づいて動いているのでしょうか?
2.「時間割引」って何?
行動経済学の考え方の一つに、「時間割引」というものがあります。
「時間割引」とは、将来もらえるごほうびや結果の価値を
『今から遠い将来になるほど低く感じる』
という心のはたらきのことです。

たとえば:
今すぐに10,000円もらえる
半年後に12,000円もらえる
という2つの選択肢を与えられた時、 多くの人は「今すぐ10,000円」を選びます。
これは、今の自分にとっては
今の10,000円 >> 半年後の12,000円
という不等式が成り立っているということに他なりません。
このように、将来のごほうびは、もらえるまでの時間が長いほど「今の自分」には魅力が小さく見えてしまうのです。
3.勉強 v.s.スマホ、どっちが勝つ?
勉強の「ごほうび」とはすなわち
テストで良い点を取ること(短期)
成績上昇に伴う達成感(中期)
学力向上による進学・就職先の充足(長期)
などですが、いずれも結果が目に見えるまで数週間~数年はかかります。
ここで間違えてはいけないのは、世のお母さんにとっては
2週間後 = 「今そこにある危機」

に感じられる一方で、中高生、なかんずく男子中学生にとっては、
2週間後 =「途方もない未来」

だということです。
この時間認識のギャップこそが、
「うちの子はテスト前なのにゲームばかりしている」
という世のお母さんのストレスの正体、ひいては家庭内不和を引き起こす一番の原因なのです。
2週間後を途方もない未来と感じている中学生男子にとって、スマホやゲームの楽しさは“今すぐ目の前”。むしろプライスレス。
だから、試験までまだ日があるうちは、目の前のスマホの魅力が圧勝してしまうのです。
でも、いざ試験日が目前になると、「勉強のごほうび」の価値が急に高く感じられるようになります。
これが、よくある『試験直前スイッチ』の正体です。
当方の数年間にわたる綿密な定点観測に基づき、中高生にとっての試験勉強とスマホの「現在価値」が試験2週間前からどのように推移するのか、男女別にグラフにしてみました↓↓
定期テストの現在価値と v.s. スマホ・ゲームの現在価値

グラフを見て分かる通り、スマホやゲームなどのいわゆる即物的娯楽要素、これらの「現在価値」は、時間軸に対して一定です。
なぜなら、スマホやゲームはいつやっても楽しいからです。
むしろ使用者が
スマホ中毒・ゲーム中毒になるように綿密に設計されている
ので、楽しいと感じるに決まっています。
当方調べではスマホの現在価値が80、ゲームは65という結果が得られています。
この80とか65という値は途方もなく高いもので、
一般的な男子中学生がゲームよりも試験勉強の方が「価値がある」と思い始めるのは、試験2日前に過ぎず、スマホに至っては試験前日まで手放すことは決してない
ということです。
4.「時間的非一貫性」って?
中高生の試験勉強開始が遅れるもうひとつの大きな原因に、「時間的非一貫性」があります。
今日の自分は「明日から英語の勉強頑張るぞ!」と思っても、明日になったら「やっぱり明日からでいいか……」と考えが変わる。
今日の自分は「明日こそ早起きしてランニングしよう!」と思っても、明日になったら「やっぱり明日からでいいか……」と考えが変わる。
今日の自分は「明日からダイエット!」と思っても、明日になったら「やっぱり明日からでいいか……」と考えが変わる。

これらはすべて「時間的非一貫性」といって、人間の持つ自然な心のクセです。
未来の自分のことを、今の自分が甘く見てしまう。これも時間割引の一種です。
人はそんなに強くありません。
未来の自分に過度な期待を託すべきではないのです。
5.じゃあ、どうすればいいの?
残念ながら、2025年現在において「時間割引」や「時間的非一貫性」に対抗する根本的な解決策はありません。
逆に、試験2週間前になったら全ての子供達がゲームやスマホを一斉にやめて自動的に勉強に勤しむような方法を科学的に構築できれば、世界中のお母さんたちの悩みを解決した功績でノーベル経済学賞とノーベル生理学賞をダブル受賞できるでしょう。家庭内不和の根本原因を解決した功績で平和賞までもらえるかも知れません。

一方で、試験前や夏休みのたびに講習を実施している塾や予備校からは、生徒が自主的に勉強することで彼らのサービスを必要としなくなるので、大きな恨みを買うことになるでしょう。
根本的な解決策はないものの、昔から言われている姑息的な方法として、次のようなものがあります:
目標をできるだけ小さくする
→ 「今日は5分だけ」「1ページだけ」から始めよう!
やった自分にごほうび
→ 30分勉強したら、お気に入りのYouTube動画を1本だけ見てOK!
誘惑を遠ざける
→ スマホ・ゲームは別の部屋に置いておく!
まとめ
「サボりたがる自分」も「頑張りたい自分」も、どちらもあなたの中にいる、ふつうの心の動きです。
それを知っておくだけでも、明日からの行動が少し変わるかもしれません。
次の試験に向けて、“今日の一歩”を大切にしましょう!
Practice makes perfect!
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